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平成の終わりに神社本庁で吹き荒れる「内紛劇」の内幕
(現代ビジネス平成30年12月31日)

2018-12-31

この「現代ビジネス」の記事は、百合丘売却問題に関する一連の問題提起や内部告発が、反田中派による「総長選に向けてのネガティブキャンペーンだった」と捉えている点で、問題の本質を見誤っている。
問題提起や告発がなされた時点で、もし、田中総長が、毅然として「切るべきもの」を切っていれば、総長へのネガティブキャンペーンに発展することはなかったかもしれない。ところが、「切るべきもの」を切らず、一部の役職員と特定の業者との癒着を放置したばかりか、事実の隠蔽に終始したことから、田中総長への信頼は地に落ち、斯界の「反田中」への流れへとつながることとなったのである。
田中総長が繰り返す「反田中派によるクーデター論」への援護射撃なのかもしれないが、隠蔽派に与する何者か記者に書かせた提灯記事との疑いがささやかれるのも無理からぬことである。

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平成の終わりに神社本庁で吹き荒れる「内紛劇」の内幕



日本会議副会長も務める「総長」の去就

時任 兼作(ジャーナリスト)

 2018年11月以降、相次いで報じられている「神社本庁の内紛」。渦中にいるのは、日本会議副会長としても知られる、神社本庁総長・田中恆清氏(74歳)だ。

 田中氏は2010年から日本会議の母体である神社本庁の総長を務め、2016年には3選を果たして「長期政権」を継続中である。

「本日の20周年のこの記念大会は、憲法改正へと向かう新たな出発点でもあり、国会議員の先生方ともより強力に連携をとりつつ、なお一層の運動の推進を展開すべく、心を新たに取り組んでまいりたく思います」

2017年11月、日本会議「国会議員懇談会」設立20周年記念大会が開かれた際には、精力的にこんな挨拶もしている。しかしこれに先立ち、田中氏をめぐって神社本庁内部ではすでにゴタゴタが発生していた。さらに2018年9月には、田中氏自身が「辞任」を口にする事態にまで発展。いったい、神社本庁の内部で何が起きているのか――。



神社本庁「統理」と「総長」の対立





全国8万の神社を包括する宗教法人・神社本庁は、事務方トップの「総長」の上に象徴的存在として「統理」を置き、旧皇族、華族らがその職を務めている。

いわば首相と天皇に相当するが、その両者がいま対立している。

現在の統理は昭和天皇の甥の鷹司尚武氏(73歳)である。

鷹司家は鎌倉時代以降、公家の家格の頂点といわれた五摂家の一つで、尚武氏は鷹司平通氏と昭和天皇の第三皇女・和子さんの養子となり、鷹司家28代目当主となった。

1972年、慶應義塾大学大学院工学研究科修了後NECに入社し、子会社社長を経て20076月に退社。翌月伊勢神宮のトップである大宮司に就任、20185月に全国8万社の宮司の頂点である神社本庁の統理に就いた。

一方、事務方トップにあたる総長を務めるのが、田中氏である。

2010年に総長就任後、日本会議で副会長を務めたことから安倍晋三首相をはじめ政権中枢に接近し、実力派総長として重きを為していた。総長の任期は3年で、26年にわたって総長を務めた田中氏は、2016年に3期目の改選が予定されていた。

このタイミングで、田中総長を指弾する怪文書がバラ撒かれたのが、そもそもの端緒であった。3期目の総長に意欲を示す田中氏が、ますます影響力を強めることを嫌う向きがあっためだ。田中氏の「政権」が長引くことで世代交代が進まないことにフラストレーションを溜めた勢力の関与がささやかれた。

「神社本庁の不動産売却をめぐり、怪文書と告発文書があちこちに流布されました」(神社本庁関係者)



「反田中派」告発の顛末





怪文書が指摘していたのは、神社本庁の百合丘宿舎売却に絡む疑惑だった。不当に安く売って神社本庁と関係の深い会社を儲けさせ、見返りを得たというものだ。一方、同様の中身の告発文書が、幹部職員2名から神社本庁に提出された。

「同年6月の総長選に向けてのネガティブキャンペーンだったのです」(同前)

2期6年を務めた田中総長は交代が順当とされていたが、安倍政権のバックアップを背景に3選を狙っていた。

一連の告発は3選阻止を狙った動きだったわけだが、その効果はなく、田中総長は目論見通り3選を果たす。

しかし、「反田中」勢力の動きは止まらなかった。

3選後もネガティブキャンペーンが続いたため、神社本庁内に真相究明を目的とした調査委員会が立ち上げられた。

調査委員会は数ヵ月の調査の結果、告発文書の指摘した疑惑を否定。返す刀で、文書を提出した幹部職員2名に「組織への背任行為があった」として解雇と懲戒処分を下した。処分を不当とする2名は、処分無効の確認を求めて東京地裁に提訴したが、「反田中」の動きはいったん鎮静化したかと思われたが、話はこれで終わらなかった。





田中総長の辞意表明、そして撤回





2018年5月に、元皇族の北白川道久統理が高齢のため退任すると、その後任として、鷹司氏が統理となった。ここから、騒動の第二幕が始まる。

2018年9月になって、神奈川・鎌倉の有名神社である鶴岡八幡宮の吉田茂穗宮司が「反田中」を鮮明にする。

「9月に行われた役員会の席上、吉田常務理事が突如、疑惑を告発した幹部職員の懲戒処分をめぐる訴訟について、和解するよう提案した」(前出の神社本庁関係者)





マスコミも巻き込んで騒動に





こうした一連の動きは、なぜか瞬く間に週刊誌各誌に漏洩する。

週刊ポストは、『神社本庁トップの辞意撤回に天皇の甥が発した痛烈苦言』(11月2日号)と題し、鷹司統理の、

「今日の会議(の田中総長辞任の決定)は覆されたということが私は気持ちが悪いですね」

という発言を掲載した。


また、サンデー毎日(12月9日号)は、「責任のある立場の者が朝令暮改のように前言を翻すことがあってはなない」との鷹司統理の言葉を引いている。

そして、週刊文春(12月20日号)は、『神社本庁トップ 天皇の甥が怒った』とし、鷹司統理の苦言を紹介した。

「(辞意撤回の通達文書について)文書を出すに当たって統理の了解を取っていないんですね」

同誌は西日本を代表する有名神社・出雲大社宮司の千家尊祐氏の手紙の内容まで紹介している。

手紙で千家氏は「神社界は統理を中心に歩むべき」とし、鷹司統理に肩入れした。この千家氏の手紙は鷹司統理宛に「親展」として出されたもので、その流出の経緯が取り沙汰された。ちなみに千家氏の長男・国麿氏は、高円宮の次女・典子女王と2014年に結婚している。千家家も、皇室に連なる名門なのである。





どちらかが辞めるまで、終わらない





かくして追い込まれた田中総長の去就が注目されるなか、2018年12月19日に神社本庁の定例役員会が開かれた。

田中総長の解任動議が出されるという観測もあったが、関係者によると、役員会は次のような展開をたどったという。

「統理と総長が話をして欲しい」

「トップ会談」での総長解任を目論む「反田中派」の常務理事がそう切り込んだものの、田中総長は、

「統理と話をして方向性を決めるとなると、その決まったことにたいして統理の責任問題も発生する。統理はあくまで権威であり、そのような場に出すことも決めることもできない」

と突っぱねたという。

安倍政権に肩入れする田中総長派と、皇室の威を借りる反田中派の争い。もはやここまでくれば、田中総長と鷹司統理のどちらかが辞めない限り、ことは治まるまい。

日本会議から支援を受ける安倍総理も、その動向に気が気ではないだろう。