神社本庁『代表役員』不在の異常事態!
(「FACTA」2022年8月号)
「神社本庁『代表役員』不在の異常事態」
金刀比羅宮など有力神社の離脱につながった神社本庁のガバナンス不全は、新たな不毛の法廷闘争に突入した。
「FACTA」2022年8月号 [統理VS総長]by 伊藤博敏
「終身総長体制」を確立する目論見か?
「終身総長体制」を確立する目論見か?
全国の神社と神職を束ねる宗教法人神社本庁で、代表役員である総長不在の異常事態が続いている。正確に言えば、5月28日の臨時役員会で、神社本庁トップの鷹司尚武統理が芦原髙穂氏を新総長に指名したのだが、田中恆清総長が率いる神社本庁がそれを認めず、地位保全を求める仮処分の申請書を芦原氏が所在する旭川地方裁判所に提出した。
総長の座は係争案件となった。6月6日、芦原氏サイドは神社本庁が本部を置く東京都渋谷区の登記所に、代表役員の登記申請を行ったが、法務局は係争となったことで判断を保留、代表役員登記は完了していない。
鷹司統理の指名は有効か否か――。
詰まるところ法廷ではそこが争われるが「統理vs総長」の争いの背景を説明しなければならないだろう。まず前提として神社本庁の「生い立ち」である・・・
(中略)
「終身総長体制」を確立する目論見
「終身総長体制」を確立する目論見
指名権が統理にあるという根拠は、神社本庁憲章に求めることができる。76年の庁規改正によって総長が宗教法人神社本庁の代表役員となったことにより、上位の役職者である統理の地位に関する問題が生じたこともあり、80年、神社本庁憲章が制定された。 憲章第5条2項は、「統理は神社本庁を総理し、これを代表する」とある。一方、庁規第7条は「役員のうち総長は、宗教法人神社本庁の代表役員とし、法人を代表する」となっている。どちらも「代表」の文字が入っているが、憲章第17条は、「庁規及び規程等は、この憲章に準拠しなければならない」としている。つまり、憲章が庁規の上位規範である以上、統理は神社本庁の人事権を含めた決定権を持つ代表であり権力だ。鷹司統理は、その認識のもと、芦原新総長を指名、田中氏を排除した。
もともと、教義経典のない多神教で祖霊信仰を持ち、八百万の神を大切にする神社界は、権力抗争に馴染まず想定もしていない。それが逆に、田中氏の5期15年を目指すという権力欲につながり、鷹司氏は「上位者」として、摩擦を承知で権力を行使せざるを得なかった。 香川・金刀比羅宮など有力神社の離脱につながった神社本庁のガバナンス不全は、新たな不毛の法廷闘争に突入した。田中氏が思い描くのは、内外の摩擦をものともせず、終身総長体制を確立することなのだろうか。
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