神社本庁とレスリング界の関係に漂う暗雲
訴訟も起こされ問題に (現代ビジネス)4月12日号
『現代ビジネス』が、神社本庁とレスリング界の関係について、興味深い記事を掲載していました。
神社界に食い込む男
神社とレスリング――。
神事の相撲の方が、関係は深いように思われるのだが、実はレスリング関係者の方が神社界に深く食い込んでいる。
JRお茶の水駅近くの神田明神は、11年後の平成41年に創建1300年を迎える江戸総鎮守で商売繁盛の御利益を求めて、参拝者が途切れることがない。
その境内で「御神紋チョコレート」ののぼりを立てて販売しているのが、日本メディアミックス(本社・東京都新宿区)である。創業者は日本レスリング協会会長の福田富昭氏(現取締役)。その後を継いで社長を務めるのは日大レスリング部の後輩で、全日本女子レスリング連盟の理事を務めていたこともある高橋恒雄氏である。
神社の御神紋が入ったお菓子は、「御紋菓」と呼ばれ、「無病息災」や「厄払い」を祈願することにもなるというだけに、神社界との深い信頼関係がなければ販売が許されるものではないが、日本メディアミックスはもっと深く神社界に食い込んでいる。
全国8万の神社を束ねる神社本庁の傘下団体に日本文化興隆財団があり、そこが企画する「日本で唯一、皇室のみを取り扱う季刊ビジュアル誌」である『皇室』の発売元である。
最近、その福田氏の周辺が騒がしい。
日本レスリング協会の栄和人前強化本部長が、五輪4連覇の伊調馨選手に対して行ったパワハラ問題に関し、福田氏は4月6日、調査委員会の認定を受けて謝罪、深々と頭を下げた。ただ、パワハラ告発を受けた3月8日の理事会後の記者会見で「(告発状は)当っているところがひとつもない」と述べ、「レスリング界の隠ぺい体質がみえる」と、批判を浴びた。
実は、神社界との関係においても、福田氏と「神社界の裏のドン」と呼ばれる打田文博・神道政治連盟会長との関係が、利権絡みで語られ、そのただならぬ関係を批判した神社本庁の幹部を神社本庁が処分し、法廷闘争にまで発展している。
日本メディアミックスの高橋氏が社長を務め、本社所在地が同じという「ディンプル・インターナショナル」という不動産会社があり、ここが神社本庁の不動産取引を一手に引き受けている。なかには不明朗取引もあるのだから、福田、高橋の両氏と打田氏との関係が疑われるのも無理はない。
福田氏は、レスリング世界選手権の優勝者で引退後はアマチュアスポーツ界に貢献、国際レスリング連盟副会長、日本オリンピック委員会(JOC)副会長など、数々の役職をこなしているが、自動販売機会社の社長を務めるなど会社経営者でもあり、人脈は多岐にわたり交遊は幅広い。
神社界に食い込むきっかけは、『皇室』の創刊だった。
「皇室のビジュアル版を作ろうという話になって、皇室報道協力委員会をまず立ち上げ、『皇室』の発売元として日本メディアミックスを設立(96年)した。その時、幅広く販売網を築こうと、各界に顔の利く福田氏を連れてきて社長に据えた。実際、彼は竹田恒和・JOC会長を招請、取締役に就けることに成功したため格好がついた」(創刊時のメンバー)
打田氏を始め、もともと個人的な関係は神社界に築いていた福田氏だが、ビジネスが伴ったことで関係は深まり、日本文化興隆財団の理事も務めたことから「神社本庁人脈」に連なることになる。
同時に、高橋氏の会社「ディンプル」が神社本庁の不動産売買を手がけるようになった。00年、ディンプルが3カ月前に購入した物件を日本文化興隆財団に売却したのがきっかけだ。以降、12年に南青山のマンション、13年に中野区の中野宿舎、15年に川崎市の百合丘宿舎と売買が続く。
こうした神社本庁の基本財産は、原則、処分は出来ないし、処分が認められても競争入札が条件となっている。だが、ディンプルは特別なのか、随意契約が認められてきた。そうした事態に異論が出始めたのは、16年の半ば頃からだった。
「百合丘宿舎の売買決済がなされたのが15年11月。翌年の役員会や評議員会で、『安く売り過ぎているんじゃないか』という質問が出るようになりました。それを問題視した稲(貴夫)総合研究部長(当時)が、独自調査。その結果を踏まえて、16年12月、『檄』と題する文書にまとめて懇意の2人の役員に渡したところ、犯人探しが行われ、『情報を漏えいし、疑惑を外部に広めた』として、解雇されたんです」(神社本庁関係者)
常識に照らして、明らかにおかしな処分だった。売却処分を担当したのは、瀬尾芳也財政部長(当時)である。複数の買い手を見つけて高値で処分する方針だったが、神社本庁や神道政治連盟の上層部から、「ディンプルを使うように」という“指示”があり、同社の鑑定価格(1億7500万円)に基づき、随意契約によって1億8400万円で売却された。
ディンプルは中間登記省略で表に出ることなく、その不動産を都内のS社に即日転売。同社が埼玉県の業者に、約半年後に転売する時には、3億1000万円に跳ね上がっていた。内外から疑問の声が上がるのは当然だろう。
ところが、神社本庁は、取引を追認するような第三者委員会の報告書をもとに、17年8月、前述のように稲氏を解雇。瀬尾氏についても「売却に関して事実と異なる発言をし、かつ総長らを誹謗した」として降格(部長から平職員に)処分にした。
当然、稲、瀬尾の両氏は反発、処分の無効確認を求める訴えを東京地裁に対して起こし、現在、争われている。神社本庁側の主張は、「瀬尾氏への指示や圧力はなく、疑惑は根拠のない決めつけ」というものだ。
神社本庁のトップは、総長3期目に入り、独裁色を強める田中恒清・石清水八幡宮宮司である。その右腕が「裏のドン」の打田氏で、田中―打田体制は、誰も歯向かえないほど強固と言われる。
問題なのは、打田氏に食い込んだ神社界に縁のない福田、高橋の両氏が、土地取引を主導、『皇室』の販売元となり、御神紋チョコを販売……と、「利権」としかいいようがない動きをしていることだ。そして、もっと問題なのは、疑問の声をあげた2人を、処分で封じ込めるという強圧支配体制である。
“盟友”の福田氏は、レスリング界のパワハラ体質が問題視されたとき、その責任を取って陳謝した。一方、神社本庁の田中―打田支配は、稲、瀬尾の両氏を支援する神職らによって攻撃されており、訴訟を起点にパワハラ体質と利権癒着が次々に暴かれ、瓦解して行く可能性がある。