東京都神社庁の元幹部が横領で起訴
組織トップが反省する「ガバナンス欠如と性善説」
(東洋経済オンライン2025/09/26)

ビジネス誌『東洋経済』が、東京都神社庁の元幹部が横領で起訴された件について、東京都神社庁長の松山文彦氏のインタビューを実施。東洋経済オンラインに記事が掲載された。
東京都神社庁の元幹部が横領で起訴、組織トップが反省する「ガバナンス欠如と性善説」
「東京地検はこのほど、東京都神社庁(都神社庁)の元幹部(神職の資格を持ち、都内神社の元宮司)を業務上横領罪で起訴した。元幹部は都神社庁の運転資金の一部、約2500万円を自身の口座に不正に送金していた。元幹部は2023年1月に都神社庁を懲戒解雇され、2024年10月には警視庁から業務上横領容疑で書類送検されていた。起訴は8月26日付。
この横領については23年5月、「神社庁幹部による約3000万円の『横領』が発覚」で詳報した。
元幹部の起訴を受け、都神社庁は9月6日、庁長である松山文彦氏の名義で「お知らせ」を管内の各神社や一部メディアに配布した。お知らせの中で、事件への対応が遅れたことや、外部の専門家による調査チームによる報告書が作成され、事件の背景や業務の課題が示されたことなどを報告し、「本事件を深くお詫び申し上げる」とした。
都神社庁は2024年8月、当時の小野貴嗣庁長が刑事告訴に踏み切ったが、当初、責任追及の動きは鈍かったという指摘もある。刑事告訴などの手続きが遅れたのはなぜか。2025年4月に都神社庁長に就いた松山文彦氏に聞いた。」
(以下、記事より抜粋)
――元幹部が業務上横領罪で起訴されました。
⇒東京都内1400の神社を束ねる東京都神社庁の庁長として、関係者の皆様に深くおわび申し上げる。横領が発覚した2022年から2023年当時、私は庁長ではなかったが、今年4月に再び庁長に就任して以降、当時の状況を役員たちから詳しく聞き、最高意思決定機関である臨時協議員会の議事録を読み、全体像を把握したつもりだ。社会の師表(模範)たるべき神職がこのような事件を起こしたことは、道徳心を体現していくべき神社界にあって痛恨の極みだ。
――松山庁長が公表した「お知らせ」には、横領発覚後の都神社庁の動きについて「対応が大幅に遅れた」とあります。
⇒都神社庁が警察に被害届を提出したのは横領発覚から半年が経過してからのことだった。外部の専門家から構成される調査チームの調査結果を受け、当時の小野貴嗣庁長が刑事告訴したのは2024年8月になってから。なぜ、これほどまで遅れたのか。身内を徹底的にたたくわけにはいかないという心理が働いたのかもしれない。横領を裏付ける資料を第三者に開⽰して告発した職員もいた。しかし「情報漏洩」として、当時の執⾏部から逆に論難される格好となってしまった。
(中略)
――元幹部は地⽅組織である都神社庁の職員にもかかわらず、⼩野庁⻑が全国組織である神社本庁の常務理事として地⽅出張する際に同⾏していました。元幹部は⼩野⽒の側近として、都神社庁で影響⼒があったようです。
⇒そのこと(地⽅出張)を役員会で問われた⼩野⽒は、「出張は命じていない」としながら、「神社本庁との協議の場に(元幹部が)⼊っていたから、そこ(出張)にいることが⾃然体だった。あうんの呼吸だった」と説明した。神社本庁の業務に(別組織である)都神社庁の職員が随⾏するのは不⾃然だ。まさに、あうんの呼吸だったのだろう。
――全国8万の神社を束ねる神社本庁の総⻑は、2025年5⽉、⽥中恆清総⻑の6期⽬が決まりました。2期6年が通常の任期とされるところ、6期18年という異例の⻑期政権になりそうです。⼩野⽒は⽥中総⻑体制の実⼒者で、「ポスト⽥中の筆頭格」とも評されていました。
⇒元幹部にとって、⾃分の上に⼩野庁⻑、さらに上には神社本庁の⽥中総⻑がいた。元幹部がなぜ横領を続けられたのか、なぜ反省の⾊が⾒えなかったのかなどを考えた時、彼がよって⽴つ権⼒基盤を想像してしまう。(元幹部には)過信がなかったか。
(中略)
――東京都神社庁の改⾰をどのように進めていきますか。
⇒調査チームによる調査報告書が提⽰した改善策に沿って進めていく。起訴された元幹部は、⻑期間にわたって⽀出根拠のない不⾃然な振り込みを続けていたのに、途中まで誰も気がつかなかった。コンプライアンスの徹底とガバナンスの回復が急務だ。調査報告書でも指摘されたことだが、神社庁では親戚関係や先輩後輩の関係が随所で⾒られ、みんな⾝内のようなところがある。末代まで恥になるようなことをするはずがないという固定観念がある。(⾝内意識は)それはそれでよい⾯でもあるのだが、道を踏み外さないよう互いに牽制することは必要だろう。いつまでも性善説に⽴つわけにはいかない。
――2024年12⽉、横領を告発した元職員が都神社庁と⼩野⽒個⼈に慰謝料などの損害賠償請求訴訟を起こしました。訴状によると、元職員が横領を裏付ける資料を第三者に開⽰したことについて⼩野⽒が情報漏洩を強く叱責し、始末書を書くよう強要したとあります。告発した元職員は⼼⾝に不調をきたし休職、最終的に退職しました。
⇒私が庁⻑になってから、庁としての⾮を認め、元職員とは和解した。告発⽅法については賛否あるが、上司の横領を告発するのは勇気のいること。訴えには⽿を貸すべきだと私は判断した。結果的に、この告発があったおかげで都神社庁は内部のうみを出し、正常化する機会を得た。告発者をたたき落とすのではなく、ありがたいことだと受け⼊れる度量が神社界には必要だ。もともと神道の世界にはそうした幅・奥⾏きがあったはずだが、いつしか狭量化してしまった。
【インタビューを終えて】
神社界の不都合な話について、要職に就く⼈物がメディアの直接インタビューに応じるのは珍しい。東洋経済は過去何度か取材を申し込んでいるが、弁護⼠を介して、型にはまった回答⽂を返してくるのが常だった。直接インタビューに応じたのは、それだけ危機感が強いことの表れか。
だが、それでもまだ公開の度合いは不⼗分だと⾔わざるをえない。元幹部の起訴を受けて都神社庁が公表した「お知らせ」⽂書は、管内の各神社や⼀部メディアに配られただけで広く閲覧できる状態にはなっていない。外部専⾨家による調査報告書も含めて、ホームページに公開するくらいの覚悟が必要ではないか。ただでさえ神社界は外部の世界から閉ざされがちだ。東京都内のある神社の宮司はこう語る。「神社は地域住⺠や参拝者に⽀えられている。たとえ不都合な話であっても、今後は、神社界を⽀えてくれている⽅々にもっと情報開⽰していくべきだろう」。松⼭庁⻑による都神社庁改⾰の⾏⽅を注視していきたい。
東京都神社庁「東神」9月20日号より
